2017/03/08

『ラ・ラ・ランド』(2016) 感想


 映画館の暗い中でスクリーンを見ている間は非現実的だ。外が夜なのか昼なのかも忘れてしまう。映画が終わって外に出ると、案外とても明るくて不思議な気分になる。一気に現実にひき戻されるけれど、嫌な気はしない。寂しいけれど、映画は終わる。でも、自分の中ではなにかがふつふつと湧き上がっている気がする。ふわふわした夢から覚めるのとも似ているかもしれない。
 それこそ『ラ・ラ・ランド』の物語なんじゃないかな。夢のような時間とその終わり。映画は終わる。夢も覚める。恋も、もしかしたら終わってしまうことも。最終的に夢を叶えたはずのエマ・ストーンが、本当はこうだったかもしれない、本当はこうあってほしかったという夢を見て束の間現実から浮かび上がっていくとき、その様子が映画のセットやフィルムによって表現されているのも、映画館での体験の非現実性があってのこと。映画の都ハリウッドとそれを取り巻くロサンゼルス(LA)という街と、映画館での現実から浮遊するような時間、やがて帰っていかなければならない現実。"LA LA LAND"、なんてぴったりなタイトルでしょう。
 そしてやっぱりミュージカルは楽しい。音楽に乗って物語が進んでいくだけで楽しく、難しいことはなにひとつない。それに本作はミュージカルに馴染みの無いひとでも楽しめるんじゃないかという気がする。古典的な要素を取り入れながら決して古さや仰々しさを感じさせず、新しいものに、自然なものに更新されていてとてもポップだ。ハリウッドそのものへの敬意や映画への愛、それを次へ伝えようという意欲。こうして遺伝子は受け継がれていくんだな。ぼくも敬意を形にして作品を作っていきたい。「好き」を形にすることは素晴らしいと思う。
 ただひたすらに楽しく美しいものを人々は観たいのかもしれない。ぼくだって観たい。生きていると驚くほど嫌なことが多い。うまくいかないことの多いこと。できればずっと夢に浸っていたい。けれどこの映画は現実の苦さも忘れさせない。だから心を打たれるのだと思う。