2017年6月6日

『メッセージ』(2016)感想


 詩情的な静寂は文学的で、丹念に読み進めているような感覚で観ていられるけれど、それでいて圧倒的な「異物感」を感じさせる画面はやはりSF映画。奥深いジャンルだなあと思った。ベースはあくまで外宇宙とのファーストコンタクトという、これまで何度も映画で描かれてきた直球な王道だからとっつきやすく、だからこそエイリアン言語の翻訳という地道かつ気の遠くなるような作業を通して描かれる闘いが際立つ。ミステリアスなエイリアンの外見が「一見」脚が何本もあるという非常に古典的なものになっているのも、入口がスタンダードになっていていいと思う。独創的かつグロテスクなエイリアンはここでは必要ないのだ。まあ、あの外見にはひとつのギミックが施されてはいるのだけれど。

 とは言え宇宙船ーと呼んでいいか少し迷うーがその巨体をひっそりと草原や都市に、これまた微妙な高さで浮かんでいるヴィジュアルがもたらす異物感はすごい。ずっと見とれてしまいそうな画だ。

 どちらかというとこれは宇宙船というよりはモノリスと言えるんじゃないかな。『2001年宇宙の旅』('68)では四角柱のモノリスが現れてまだ猿同然だった人類にある種の啓示を与えて進化ーー別の個体を撲殺することで成された進化だーーを促したが、『メッセージ』ではこの微妙な曲線をもつ、種のようでも砂浜の丸石のようでもある自然的形状のモノリスが、人類にまた別の啓示ーーメッセージを与える。このメッセージは、かつて類人猿が受け取ったものとは正反対のもの。それがなんなのかは伏せておくけれど、ぼくには本作のモノリスが、『2001年』のモノリスのアフターケアにやってきたかのように思える。

2017年6月3日

クレッセント・クルーザー


 クレッセント・クルーザーは三日月船団を象徴する旗艦である。三日月船団は三日月を信仰する平和の民によって構成され、ひとつの場所にとどまらずに銀河中を旅している。クレッセント・クルーザー自体に強力な火器は備えられていないが、強固な外殻とシールドを持ち、つねに流星型戦闘機メテオ・ファイターの護衛に護られている。無数の流れ星を引き連れた三日月の姿はいろいろな惑星の空で見られ、見かけた者はその黄金に輝く船団に魅了された。
 側面から見たときこそ三日月型に見えるよう設計された三日月船だが、正面から見れば非常に細長い楕円形であり、決して現実の三日月のように球体に基づく形状ではない。これは、船団の信仰において満月が不吉の象徴だからである。クレッセント・クルーザーをまだ直に目撃したことがなく、その存在や形について口伝えやごく限られた資料でしか知らない人々のあいだでは、よくこの形状が話題となり、正面から見たら満月なのか否かは賭け事の対象となることが多かった。

2017年6月1日

CAT-CAT


 CAT-CATはキャッティア帝国軍が誇る地表歩行兵器である。重厚な装甲と強力な火器を持つ金属の猫は戦場でもっとも遭遇したくない相手であり、そのシルエットは犬の兵士たちから恐れられた。
 搭乗員は操縦士2名、砲手5名の6名からなり、さらに部隊の指揮官が乗り込むこともあった。砲手のひとりは操縦士たちとともに頭部の操縦席に着き、顎の左右にある連射式中型レーザー砲と口から覗く重レーザー砲を操作し、残りの3名は背中に配置された二基のレーザー砲塔、尻尾の先についた対歩兵軽レーザー砲をそれぞれ担当した。胴体には多少の収容スペースがあり、兵員や補給物資を積載することができる。
 重量により歩行時に生じる地響きは足の裏に発生させた磁気場によって軽減されるので、大きな足音を立てることなく、敵陣地に接近することができた。また、眼にあたる部分には高性能センサーやスキャナが取り付けられており、夜間でも操縦士は申し分ない視界を確保できた。
 コーギー・タンクやダックフント・クローラー、スヌープ・スカウトといった犬の地上兵器に比べて速力と機動力に長けているだけでなく、長い脚を利用してそれらを踏みつけて破壊することもできた。ただし、多少の攻撃ではびくともしない犬の地上兵器に比べて安定性に欠けるのが弱点だった。機体の安定性はその速力の犠牲になっていたのである。
 どれだけ強固な歩行戦車でも地面に倒れて身動きが取れなくなってしまえば一貫の終わりだ。その場で固定された砲台基地と化して戦いを続けられる場合もあったが、ほとんどの場合は敵の兵士や戦車に取り囲まれて破壊、もしくは投降を余儀なくされた。集中力を維持しづらい上にすぐ戦意喪失してしまう猫の兵士たちが後者の道を選ぶのは言うまでもなかった。

キャットラーの演説


 標準歴35290年のキャットラーの演説より抜粋。背後に立つのはキャットラーの右腕と称された内務大臣のルートヴィッヒ・サバトラー。演説の原稿は全て彼の作成したもので、キャットラーの政策方針にもサバトラーの意向が反映されていることから、独裁者を操る恐るべき人物と呼ばれた。

「偉大なる女王陛下の名のもとに銀河を統一する大事業は、忠実なる臣民諸君の努力のおかげで着々と進んでいるーー(中略)ーー決して無視できない障壁があるとすれば、それは人類による妨害である。旧世界の支配者たちは未だ我々を支配したつもりでいる。彼らは我々が持つ当然の権利を決して認めようとはしないーー(中略)ーー我々はホモ・サピエンスの支配から脱却せねばならない。あらゆる意味で連中の影響下から脱するのだ。銀河が彼らのものではないことを思い知らせてやろうではないか!ーー(中略)ーーもちろん、犬が人類の味方をするのなら、連中のことも敵と見なすしかあるまい。有史以来人類の腰巾着でしかなかった彼らが、人間どもと手を組んで全てを牛耳ろうとしていることは明らかだ。警戒を怠れば、瞬く間に世界は人間と犬に支配されてしまうだろう。我々自身の自由と安全を守るためには、武器を取って抵抗しなくてはならない。戦いは私の望むところではないが、キャッティア帝国、ひいては銀河社会に暮らす全ての生命を守るためなら、喜んで試練に挑む覚悟をしよう」

 この演説で初めてキャットラーは人類と犬を明確に敵と見なした。銀河社会の大半はこの自意識過剰な猫の指導者とのその新体制を警戒したが、いくつかの種族、共同体はこれに共鳴してその野望に加担することになる。そうして対立はやがて戦いへと発展し、後に「猫と犬の宇宙戦争」と呼ばれる大戦が始まるのである。